入院患者評価スケール

はじめに

近年、精神障がい者の社会復帰が大きな課題となっています。当院においては、この数年間、入院患者さまの社会復帰を最重要課題の一つと位置づけ、生活訓練施設や福祉ホームB型、精神科訪問看護ステーション等を開設し、社会復帰に向けた積極的な取組みを展開してきました。
その取組みの中で、当院では患者さまの状態像を包括的に捉え、さらに入院患者さまと退院者さまの選別が可能な "メルクマール" となる評価スケールとして、「京阪病院式精神科病院入院患者評価尺度(Keihan hospital's assessment scale for psychiatric inpatient;KAS)(京阪病院式評価スケール)」を開発し、運用してきました。

京阪病院式評価スケールの構造

このスケールは、社会復帰の予測因子と考えられる要素として(1)「重症度」(精神症状)、(2)「生活自立度」、(3)「社会資源」並びに(4)「レディネス」(心理的準備状態)について評価を行います。
  • 「重症度」は「重症度評価表」を用いて、(A)最重度、(B)重度、(C)中等度、(D)軽度、(E)院内寛解、(F)寛解の6段階にて評価を行います。(表1)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/tab_01.html
  • 「生活自立度」は自立度のレベルについて、(1)全く自立できない状態から(4)概ね自立した状態までの4段階で評価します。(表2)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/tab_02.html
  • 「社会資源」としては、居住場所の有無、支援者の有無より4段階の評定を行います。(表3)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/tab_03.html
  • 「レディネス」は、患者さま本人の社会復帰への意欲、知識情報、自信(自己効力感)、不安、家族の理解・協力レベルをそれぞれ4段階で評定します。(表4)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/tab_04.html
これらの評価は、まず「精神症状」(重症度)評価、「生活自立度」評価、「社会資源」評価から、3次元マトリックスを用いて、5点〜80点へと得点化(3次元得点)を行います。さらに、レディネスに係わる5項目について、それぞれ4段階のリッカートスケールを用いて、得点を加算することでレディネス尺度得点(5点〜20点)を算出します。
最終的に3次元得点とレディネス尺度得点を合計することによって、100点満点の評価スケール得点(総合得点)が得られます。(図1)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/fig_01.html

京阪病院式評価スケールの実際

京阪病院式評価スケールを当院において実際に用いることにより、次のようなデータが得られました。(2003年)
3次元得点とレディネス尺度得点の合計より算出される総合得点について、その得点範囲は10点〜95点を示しました。総合得点の平均値は57.37±17.46点です。(図2)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/fig_02.html
京阪病院式評価スケールの総合得点について、入院患者群と退院者群の比較では、入院患者群の平均値は53.74±16.27点、退院者群はその平均値が72.81±13.57点であり、統計的に有意な差(p<=0.0001)が認められました。
入院患者を精神科一般病棟群と精神科療養病棟群にわけて退院者群と比較したところ、一般病棟群の平均値は47.30±18.51点、療養病棟群は58.42±12.59点を示し、総合得点についてグループ間に有意差(p<=0.001)が認められました。さらに、退院者群を生活訓練施設群と一般退院者群にわけて検証した結果、生活訓練施設群、一般退院者群ともに、一般病棟群および療養病棟群との間に統計的に有意な差(p<=0.001)が認められています。(図3)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/fig_03.html
本院の場合、社会復帰が可能と見込まれるカットオフポイントは70点/71点であることが検証されています。
また、この評価スケールを用いて、前向きコホート分析を行い、総合得点グループ毎の1年後退院率を検証した結果、高得点群と低得点群に有意差が認められました。(図4)リンク先 : http://www.nishiurakai.jp/doc/fig_04.html
つまり高得点群(71点以上)の1年後退院率は66.7%、低得点群(71点未満)では41.1%を示しました。(2005年)

京阪病院式評価スケールを用いることによるメリット

京阪病院式評価スケールを用いることで、長期の入院患者さまを含めた入院患者さまの全般的な管理が可能となります。例えば、入院患者さまの個々の状況把握をはじめ、病棟ごと、疾病ごと、在院期間ごとなど、各集団の状況把握が可能となり、病院運営の基礎データとしての活用も可能となります。
また、経時的評価によって治療効果判定の補助資料としても活用可能となります。さらに、医師をリーダーとした看護師、作業療法士、ソーシャルワーカー等々による個別カンファレンスの基礎データとして活用していくことが可能であり、長期入院患者さまの退院支援に欠かせない「チーム医療」実践のための有効なツールとなります。

詳細資料

  1. 西浦信博 三浦康司:精神科病院における長期入院患者の退院促進プログラム開発に関する研究‐入院患者評価スケール開発の試み.日本精神科病院協会雑誌 Vol.22, No.4, pp. 393?400, 2003.
  2. 西浦信博 三浦康司:精神科病院における長期入院患者の退院促進プログラム開発に関する研究(2)‐入院患者評価スケールの臨床的有用性の検証.日本精神科病院協会雑誌 Vol.24, No.1, pp. 51?58, 2005.